保定装置(リテーナー)はなぜ必要?

保定装置(リテーナー)はなぜ必要?

矯正治療が終わり、矯正装置をお口の中から取り外したら、長かった矯正治療が終わった!と嬉しくなることでしょう。しかし矯正装置を外したからといって、そこで治療が終了するわけではありません。この後は「保定装置(ほていそうち)」という装置を付けて過ごす必要があります。ではこの「保定装置」はなぜ必要なのでしょうか。

なぜ保定装置が必要?

矯正治療が終了したばかりの歯は、実はまだ不安定な状態です。矯正装置によって力を加えて歯を動かし、歯並びを整えたあとは、歯と歯の間にある線維が元の状態に戻ろうとするため、そのままにしておくと歯が動いて後戻りが起きてしまいます。この後戻りを防止するための装置が「保定装置(リテーナー)」です。せっかく長い時間をかけて歯並びと噛み合わせを整えたのに、後戻りが起きてしまったら元も子もありません。きれいに並んだ歯並びと噛み合わせを保つため、そして後戻りを防止するために保定装置は欠かすことができないものです。

保定装置について

保定装置にはいくつか種類があります。取り外し式のものでは、表側にワイヤーがあり、裏側は樹脂素材からできているものや、透明のマウスピースタイプのものなどがあります。また固定式のものでは、歯の裏側にワイヤーを貼り付けるものがあります。保定装置は矯正装置と違い、歯を動かすことはありません。そのため保定装置を装着しても、基本的には歯が動く痛みはありません。

ただし、食事や歯磨きのあとに長時間保定装置を戻し忘れると、一時的に痛みが出ることがあるため忘れずにお口の中に戻すようにしましょう。

保定期間について

保定期間は約2~3年です。場合によっては3年よりもさらに長期間保定装置を使用することが望ましいこともあります。取り外し式の装置の場合、最初のうちは食事や歯磨きのとき以外は保定装置を装着したまま過ごします。矯正治療によって歯が並んだ位置に安定してきたら、少しずつ保定装置を外す時間を増やしていきます。ただし保定装置を外す時間はご自身で勝手に決めてはいけません。主治医の指示に従って装置を使用するようにしましょう。

特に最初の1年間はかなり後戻りしやすいため、しっかりと装置を使用することをお勧めします。

保定装置についての注意点

保定装置は長時間お口の中に装着するため、汚れや細菌が付いてしまいます。歯みがきの際に洗って、できるだけ清潔に保つようにして下さい。ドラッグストアなどでもリテーナー用の洗浄剤が販売されていますので、そちらを購入して使用するのも効果的です。なお消毒効果があるからといって、熱湯をかけることは絶対にしないでください。熱によって樹脂が変形し、使用できなくなってしまいます。

保定装置を破損・紛失した場合、すぐに受診するようにして下さい。長い時間保定装置が外れたまま過ごしていると、歯の後戻りが起きる恐れがあります。

保定装置は、きれいに整った歯並びを後戻りから守る大切な役割を持っています。きれいな歯並びをキープするために矯正治療が終わっても、もうしばらく頑張りましょう。

 

矯正治療中に引っ越し・留学・出張することになったら

矯正治療途中に引っ越しや留学、出張になると、今まで通っていた歯科医院や矯正歯科に通院できなくなる可能性が出てきます。また矯正治療をしたくても、お仕事の都合で転勤が多い場合には矯正治療を躊躇する方もいらっしゃるでしょう。では矯正治療中に引っ越しなどが理由で通えなくなった場合、矯正治療はどうなるのでしょうか。

矯正治療中に引っ越しや留学などが決まったら?

虫歯や歯周病治療の場合、転居先の歯科医院で治療をすることは大きな問題ではありません。しかし矯正治療は長期間にわたって治療が行われるため、転勤などが決まったら、矯正治療はどうなってしまうのか心配になることと思います。

矯正治療はできる限り、治療を開始した矯正歯科医院で続けることがベストです。もし転居先から今までの医院に通院が可能であれば、これまでと同じ医院で治療を受けましょう。

遠方への転勤・転居・留学・出張などで通院が困難になった場合には、転居先の矯正歯科医院に紹介状や資料を持参または郵送して、転院手続きを行い、治療を引き継ぐことになります。

ここで注意したいのは、転院前と転院後の矯正歯科医院で治療方針や最終的な治療のゴール、矯正装置、料金体系などに違いがあるかもしれないということです。ゴールの認識が違えば治療期間や使用する装置にも違いが出るかもしれません。また、矯正装置には様々な種類があるため、転院元と転院先とで主に使用している装置が異なる場合には、転院後に装置を着け替えて治療を続けることも考えられます。転院の際には紹介状やレントゲン写真などの基礎的な資料を転居先に持参または郵送して治療を引き継ぎますが、上記のように治療方針や装置に変更が出たり、料金体系の違いから新しく費用が発生することがあります。

費用については、日本矯正歯科学会会員の矯正歯科医院で転医や治療の中断となった場合、日本矯正歯科学会の指針に基づいて、治療の進行状態に合わせて精算・返金を行うこととなっています(当院もこの指針に基づいた対応となります)。また、医院ごとに規定が定められている場合がありますので、転医や中断による費用の返金については主治医にご相談されることをおすすめします。

また舌側矯正装置での矯正治療を行っている方は、いちど装置を撤去し、違う装置を使って矯正治療を再開することもあります。その理由は、舌側矯正装置は医院によっては対応していないところもあるからです。また難症例に対応できる医院が残念ながら近くに見つからない、といったケースも見受けられます。

海外留学や出張など、諸外国へ転居するケースにおいては、表側に矯正装置をつけている場合は紹介が可能なケースがほとんどです。しかし舌側矯正装置の場合は、いちど装置を撤去して表側に着け替える必要があります。また短期間であれば一時的に装置を外して治療を中断し、帰国後に装置を着け直して治療を再開するといった方法も考えられます。

難症例のケースでは、これまでのかかりつけで通院したほうが良い場合も

難症例と言われている症例などでは、転院せずにこれまでと同じ矯正歯科医院に通ったほうが良い場合があります。例えば「2か月に1回なら通院が可能」など、通院頻度を下げれば通院できる場合には、転院せずにこれまでの矯正歯科医院で治療を続けた方が、結果的にはスムーズに治療が進む場合もあります。

引っ越しや留学などが決まったら、早めにかかりつけ医に相談を

矯正治療はできる限りこれまでと同じ矯正歯科で治療を受けることが望ましいですが、通院ができなくなった場合は現在の歯科医院に相談し、転居先の矯正歯科への紹介状などの資料を揃えてもらう必要があります。また、治療の中断の場合にも装置の撤去や中断期間に使用するリテーナー(後戻りを防ぐ装置)などの準備が必要です。転居が決まって通院が難しくなりそうな場合は、早めにかかりつけ医に相談するようにして下さい。

 

矯正治療は途中で止められる?

矯正治療は装置を付けて歯を動かす治療期間、矯正後の後戻りを防ぐための保定期間を合わせると、数年かかります。その間に矯正治療を中断したり、止めてしまう方も少なからずいらっしゃいます。では矯正治療を途中で止めることはできるのでしょうか。

矯正治療を止める理由とは?

冒頭でも触れたとおり、矯正治療は保定期間を合わせると、長い年月を必要とする治療です。頑張って治療を続けていても、残念ながら途中で来院が途切れたりして、いつの間にか治療を止めてしまわれるケースも見受けられます。では矯正治療を止める理由として、どのようなことが挙げられるのでしょうか。

・引っ越しに伴うケース・・・転勤や引っ越しにより、矯正治療が続けられなくなるケースがまず挙げられます。「引っ越しだから矯正治療を止めなければいけない」と思われる方がいらっしゃいますが、この場合、転院の手続きをすることで転勤先や引っ越し先でも矯正治療を続けることが可能です。現在治療中の歯科医院にその旨を伝えれば、紹介状を出してもらえます。ただし、歯科医院ごとに料金体系等が異なるため、転院先では別途矯正治療費が発生することがあります。まずは引っ越しで通院できなくなることを担当医に伝えましょう。

・ご自身の意思で止めてしまうケース・・・引っ越しなど物理的な理由ではなく、ご自身の意思で矯正治療を止めてしまうケースについては、様々な理由が考えられます。まずは患者さんとのスケジュールが合わず、矯正治療の予約が取れないというケースが非常に多く見られます。学校や部活、習い事などで忙しい方はなかなか予約が取れず、そのまま予約をしなくなっていつの間にか矯正治療を止めてしまった、というケースです。

また治療に対するモチベーションが低下してしまうことも、矯正治療を止めてしまう理由のひとつです。矯正治療は先が長い治療で、最初は「頑張ろう!」と思っていても、だんだん面倒になり、途中でイヤになってしまうパターンも多く見られます。その他、通院のたびに行う調整が苦痛という方も、矯正医療を止めたいという理由に繋がることがあります。このように、ご自身の意思によって矯正治療を止めてしまうケースも見受けられます。

矯正治療を止めてしまうことによるリスクとは

では矯正治療を途中で止めてしまうことで、どのようなリスクを負ってしまうのでしょうか。いちばん懸念されるリスクは、後戻りです。矯正治療は、歯に矯正装置を装着して歯を動かしますが、装置を外すと歯が元の位置に戻る「後戻り」が起きてしまいます。せっかく矯正治療を続けていても、治療を途中で止めてしまうと後戻りが起きてしまうため、これまでに費やした時間と費用が無駄になってしまいます。

もしまた治療を再開したいと思っても、止めてしまったところから再スタートできるとは限りません。後戻りが起きていると、再度検査や治療計画の立て直しから始まってしまうことがあります。

また、抜歯が行われた後に隙間を閉じる前に長期間治療が中断している場合は、歯が動きにくくなってしまっている可能性があります。

矯正治療は長期間にわたることが多いため根気のいる治療です。理想の歯並びを手に入れるためにも、矯正治療に対するモチベーションを維持することが大切です。

吹奏楽と矯正治療は同時にできる?

中学、高校になると部活動の中で吹奏楽を選ぶ方もいらっしゃるでしょう。吹奏楽は、文科系の部活でも人気が非常に高く、楽器を演奏している先輩の姿に憧れを抱き、自分もいつかあんなふうに演奏してみたい!と思うお子さんもきっと多いと思います。ここで疑問となるのが、吹奏楽と矯正治療が一緒に出来るかどうかです。実際はどうなのでしょうか。

基本的には矯正治療と吹奏楽の同時進行は可能

吹奏楽で使う楽器には、トランペット、フルート、トロンボーン、サックスなど色々な種類があります。そのほとんどが、音を出すためにマウスピース(この金管楽器で使うマウスピースは、矯正治療で使うマウスピースとは全く違う形状をしています)やリードが必要となります。

矯正治療では歯にブラケットなどの装置をつけて歯並びを改善していくため、マウスピースやリードが矯正装置に当たって楽器を演奏する際に音が出にくい、ということがあります。そのため、吹奏楽部の指導者によっては矯正治療を反対されることもあるようです。

しかし、矯正治療をしていると絶対に楽器の音が出ないというわけではないです。楽器によって、矯正治療の影響を比較的受けにくいものもあり、中でもフルートはあまり影響なく音を出すことができるようです。また、トランペット、トロンボーンなどマウスピースを付けて演奏する金管楽器もそれほど影響はないようですが、サックスやクラリネット、オーボエなどのリードを使用する木管楽器はリードをかむ必要があり、矯正治療にやや影響が出ることが考えられます。

どの楽器を演奏するにも、矯正装置がお口の中にあることで音が出しにくくなります。しかし絶対に出ないことはありません。その分、他の人よりもたくさん練習が必要であったり、楽器が制限されることもあります。

個人差が大きく出る矯正治療

矯正治療をしながら吹奏楽をしていると、矯正治療の進みが遅くなることがあります。しかし、そもそも矯正治療における歯の動き方には個人差があり、必ずしも皆同一ペースで進むわけではありません。

状況に応じた治療法や装置を選択しながら、個々のペースで治療を進めていくことが大切になります。対応が可能ならば矯正装置をブラケットなどの固定式の装置ではなく、取り外し式のマウスピースにするなど、患者さんのお口の中の状況と生活習慣に応じた治療法を一緒に考えながら治療を行い、吹奏楽も楽しめるようにするのがベストではないかと思います。中には難しいケースもあるかもしれませんが、ご本人にとっていちばん良い方法を一緒に考えていくのが、矯正治療における重要なポイントとなるため、悩み事はためらわずに歯科医師に相談して下さい。

 

 

 

矯正治療中にスポーツはできる?

矯正治療は歯に矯正装置を付けて過ごすことになります。スポーツをしている方、あるいはこれから何かスポーツに挑戦しようと思っている方にとって、スポーツをしながら矯正治療はできるの?という疑問を浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。では矯正治療中にスポーツはできるのでしょうか。

基本的には矯正治療中のスポーツは大丈夫

結論から言うと、矯正治療中でもスポーツを楽しんでいただけます。ただスポーツの種類によっては、顔や口元を強くぶつける可能性が高いスポーツもあり、矯正装置によって歯が欠けたり唇などの粘膜を怪我する恐れがあります。例を挙げると、ボクシングやラグビー、アメフトなどの接触の激しいスポーツはそのリスクが高いです。

またほかのスポーツに関しても、矯正治療の装置というよりは不意のアクシデントによって口元をケガしてしまうという意味では同じです。例えばバドミントンやテニスなどのラケット競技において、ダブルスの試合の時に味方のラケットが口元に当たってしまうことも十分想定できます。

一般的なワイヤー矯正の場合は特に、アクシデントによるお口の中の怪我や矯正装置の破損などがリスクとして挙げられますので、矯正治療はもちろん可能ですが、この点を留意していただければと思います。

先に挙げた接触の激しいスポーツをされる方や、怪我がご心配な方は、矯正装置に合わせて歯科医院でマウスガードを作製することで対処することも可能です。ただし、その場合は歯が動いていくのに合わせて何回もマウスガードを作り直す必要が出てきます。

マウスピース矯正装置の場合、比較的ケガをしにくいこと、またスポーツ中はマウスピースを外しておくことでこの点のリスクは軽減されますが、もしマウスピースをはめたまま競技を行い、口元をケガしてしまった場合、マウスピースが破損していないかも確認してもらって下さい。

スポーツと歯並びの関係

ここで、スポーツと歯並びの関係性について少しお話をいたします。

世界で活躍するトップアスリートたちの歯並びがとても美しいことをご存じでしょうか。歯列の整った美しい歯並びは、表彰台に乗ったときの笑顔を格別なものに仕上げてくれています。そして歯並びだけでなく、噛み合わせがきちんと整っていることも、トップアスリートたちの特徴でもあります。

スポーツでは、一瞬の強い力や瞬発力、反発力などが勝敗を左右します。その際、噛み合わせが大変重要になるのです。噛み合わせがズレていると、この一瞬の力を発揮することが難しくなり、タイムや成績にも変化が起こることがあります。このように、噛み合わせを改善することで、身体能力や瞬発力に差がついてしまうことがわかってきており、スポーツをするうえでも歯並びと噛み合わせの改善をすることはとても重要です。

歯並びと噛み合わせ、スポーツはとても大きな関係性を持っています。スポーツを楽しみながら歯並びと噛み合わせを整えてみましょう。

妊娠中の矯正治療で気をつけること

妊娠中はホルモンバランスの変化により、体調が大きく変わります。妊娠中や産後は体調管理に気をつける時期であり、お薬を飲むことにも躊躇してしまうことと思います。また、妊娠中には歯が痛くなったり、歯ぐきが腫れたり、お口の中でも色々なトラブルが起きやすくなります。では矯正治療についてはどうでしょうか。今回は、妊娠中の矯正治療で気をつけることについてお話します。

妊娠すると、ホルモンバランスの変化で様々な変化が起こる

女性は妊娠すると、体内のホルモンバランスが大きく変わり、それに伴って様々な変化が起こります。その代表と言えるのが、つわりです。つわりは多くの妊娠中の女性が経験し、その辛さは言葉では言い表せないことでしょう。

そしてこの変化は、お口の中にも様々な影響を与えます。まずはつわりにより歯磨きがし辛く、お口の中の衛生状態が悪化してしまうことが挙げられます。汚れが残るとプラークが作られ、虫歯や歯周病になりやすくなります。

また、妊娠中は「妊娠性歯肉炎」が起こりやすくなります。ホルモンの変化により歯肉が腫れやすくなるため、歯肉炎が起こりやすくなります。歯肉炎をそのままにしておくと、歯周病に進行する恐れがあります。歯周病になると、早産や低体重児出産のリスクが高まるとも言われているため、注意が必要です。

妊娠中の矯正治療で気を付けなければいけないこととは?

基本的に、妊娠中でも矯正治療は可能です。しかし体の変化により、非妊娠時と比べて気を付けなければいけないことがあります。では妊娠中の矯正治療はどのような事に気を付けるべきでしょうか。

  • 虫歯・歯周病リスクに対する口腔ケア・・・ワイヤー矯正装置の場合、歯磨きがし辛いため妊娠中でなくても磨き残しが多くなりやすいです。つわりの時期と重なると、歯磨きの時間が苦痛で仕方なくなるため、虫歯・歯周病リスクがさらに高くなってしまうことが考えられます。できる限り、お口の中を清潔に保つように心がけましょう。つわりの時期が終わったら、念入りに歯磨きを行うようにして下さい。また安定期に入ったら、歯科医院で歯のクリーニングを受けておくと残っているプラークもすっきり取ることができます。

 

  • レントゲン撮影・・・矯正治療を始めるにあたり、レントゲン撮影が必要になります。また、矯正治療中や矯正治療終了時にもレントゲン撮影を行うことがあります。歯科でのレントゲン撮影時の被ばく量は微量ですが、特に妊娠初期はレントゲンによる被ばくが心配な方もいらっしゃると思います。もしかしたら妊娠しているかも?という場合は歯科医師に申し出てください。妊娠前に撮影した分に関しては、特に心配いりません。

 

  • 痛み止めや抗生物質の服用・・・妊娠中に薬を飲むと、薬によってはお腹の中の赤ちゃんに影響を及ぼすものがあります。矯正治療で歯が動く時、痛みを強く感じる場合は痛み止めを服用して対処することがありますが、妊娠中に使うことのできる痛み止めは限られています。また抜歯を行った際、化膿止めの抗生物質が処方されますが、抗生物質も赤ちゃんへの影響が心配されます。もちろん妊娠中の方にも比較的安全に使える薬はいくつかあります。妊娠中であることを歯科医師にきちんと伝えておきましょう。

 

金属アレルギーがあっても矯正治療は受けられる?

歯科治療を受けられる方の中には、金属アレルギーをお持ちの方もいらっしゃると思います。金属アレルギーでは、金属が皮膚に触れた部分に赤味や腫れ、かゆみ、痛みなどの症状が出ます。矯正装置にも金属が含まれていることがありますが、金属アレルギーをお持ちの方でも矯正治療を受けることは可能なのでしょうか。

歯科治療における金属アレルギーとは?

歯科治療において、金属素材を使用する機会は多くあります。虫歯治療で歯を削ったときに、削った部分を修復する際に使われるインレーと呼ばれる詰め物や、クラウンと呼ばれる被せ物などが代表的な例です。これらは一般的に銀歯と呼ばれ、保険適用の材料です。安価で治療ができるため日本でも昔から取り入れられています。しかし、歯科治療に使われる金属素材が、金属アレルギーを引き起こす可能性があるとの報告があり、近年ではセラミックなど非金属の素材を使った治療法に移行していっています。

歯科治療で金属アレルギーを引き起こすと言われている金属は、銀歯の主な素材である「金銀パラジウム合金」や、入れ歯の金属部分に使われる「ニッケル」「クロム合金」などがあります。このような金属がイオン化し、体内のたんぱく質と結びつくことで抗原となってアレルギー症状を引き起こすと考えられています。

矯正治療は大丈夫?

矯正治療の装置で最もオーソドックスなものは、ブラケットとワイヤーを使ったワイヤー矯正装置です。ほぼどのような症例でも対応できるため、矯正治療の第一選択肢とも言えます。しかしこの装置は金属のイメージが強いため矯正治療でも金属アレルギーが起こるのではないかと不安に思われる方も多いことでしょう。また実際に金属アレルギーをお持ちの方は、矯正治療を諦めなければならないのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、矯正治療に用いられる装置の中には、アレルギーを起こしにくい金属を用いたものや、金属以外のものも多くあります。

例えば、ワイヤー矯正装置でも、セラミックやプラスチック素材のブラケット、アレルギーの原因となりにくい金属素材のワイヤーなどを使用することで、金属アレルギーに対応することができます。

また、症例によっては透明なマウスピースを使ったマウスピース型矯正装置でも対応できます。矯正治療で使うマウスピースは、素材がウレタン樹脂でできており、金属は使われていません。

このように、金属アレルギーの方でも使用する装置をしっかり選択すれば矯正治療が可能な場合があります。金属アレルギーをお持ちの方や不安な方は、かかりつけ医に相談してみて下さい。

矯正治療中に装置が外れたらどうする?

固定式の矯正装置は、食事を行っても外れないように歯科用接着剤で接着してあります。しかし矯正装置は虫歯治療の詰め物や被せ物と違い、矯正治療後に取り外すことを前提に接着しているため、何らかの原因により矯正装置が外れてしまうことがあります。今回は、矯正装置が外れる原因と対処法などについて説明いたします。

どの矯正治療でも装置が外れる可能性はある

矯正治療にはいくつか種類があります。主な矯正治療法として、ブラケットとワイヤーを使ったマルチブラケット装置(ワイヤー矯正装置)、インビザラインに代表されるような取り外し式のマウスピース型矯正装置、歯科矯正用アンカースクリューなどがあります。

最も一般的なマルチブラケット矯正装置は歯の表面にブラケットを着けてワイヤーを通し、ワイヤーを調整しながら歯を動かします。この場合、歯の表面に着けたブラケットが外れてしまうことがあります。特に外れやすいケースは以下のようなものが考えられます。

・セラミックや銀歯などの被せ物に装置を着けた場合

・歯質を強化するためのフッ素塗布を行っている歯に装置を着けた場合

・固いものをブラケットの上で噛んでしまった場合

・ブラケットを装着する際の防湿不足(唾液が流れ込んで上手く接着できない)の場合

・噛み合わせが深いため下の歯の装置が上の歯に当たる場合

・歯ぎしりがひどい場合

またインビザライン(マウスピース型矯正装置)でも「アタッチメント」という米粒大の樹脂を歯の表面に接着しますが、それが取れてしまうことがあります。アライナー(マウスピース)を外すときに大きな力がかかった場合など、何らかの拍子でアタッチメントが取れてしまうことがあります。

歯科矯正用アンカースクリューは顎の骨に埋め込んで歯を動かすための支えとする小さなネジのような装置です。歯科矯正用アンカースクリューは最終的には取り外すものなので、顎の骨とくっつかないように取り付けます。そのためアンカースクリューがぐらぐらしてきて自然に取れてしまうことがあります。

矯正装置が外れないようにするために気をつけること

・噛み方に注意する・・・食事の際に、固いものを食べるときは少し小さめにして口に入れる、粘着性の強いものは控えるなど噛み方や食べ方、食べ物に注意して過ごしましょう。

・指や舌であまり触り過ぎない・・・矯正装置やアタッチメントなどが気になって、つい指や舌で装置を触ってしまいがちですが、矯正装置の不具合が生じたり取れやすくなってしまうため注意が必要です。

矯正装置が外れてそのままにしておくと予定していない方向に歯が動いてしまう可能性もあるため、装置の故障に気付いた場合は、次の受診日を待たず、できるだけ早く受診するようにして下さい。

矯正治療中に歯がグラグラするのは異常?

矯正治療を始めると、これまでには無かった症状が現れて不安になることもあるかもしれません。最も多いのが、前回お話しした歯が動くことで起きる歯の痛みですが、それ以外で心配になるのが、「歯がグラグラと動くこと(動揺)」ではないでしょうか。今回は、矯正治療中の歯のグラつきについてお話します。

矯正治療中はなぜ歯がグラグラする?

歯がグラグラと揺れ動くことを「動揺」と言います。矯正治療を受けている最中に歯に動揺が見られるのは決して珍しいことではありません。しかし矯正を始めて歯が動揺すると、「歯が抜け落ちるの!?」とすごく心配になることでしょう。ではなぜ矯正治療中に動揺が起きるのか、そのメカニズムをまずご説明します。

歯はそのまま歯ぐきにくっついているのではありません。歯の根の周りには「歯根膜」という薄い膜があり、その薄さはおよそ0.15~0.2mmと非常に薄いものです。歯根膜にはたくさんの細い線維が走っており、この線維に包まれて骨の中に歯が並んでいます。歯根膜があることで、指などで歯を押すと「生理的動揺」という歯がほんの少し動く現象が見られます。この生理的動揺は、健康な歯根膜でも見られます。

矯正治療はここに矯正装置による力を持続的に加えます。物理的な力が加わると歯根膜の中の骨を溶かす細胞である「破骨細胞」と、骨を作る「骨芽細胞」の働きにより歯の周囲の骨が作り変えられるため歯根膜が一時的に厚みを増します。矯正治療中はこの働きを繰り返しながら少しずつ歯が動くので、歯が少しグラつくことがありますが、決して異常というわけではありませんのでご安心下さい。

あまり強い力をかけるとトラブルの原因にも・・・

矯正治療は弱い力をかけながら歯の移動を行います。このため治療期間は長くなり、「もっと早く終わらないのかな」と思うようになる方もいるかもしれません。

しかし早く終えたいからといって、一般的な力のかけ方よりも強い力を加えると、歯ぐきに炎症が起きたり歯の根っこの吸収(歯根吸収)が起きたり、ひどいときには歯の神経が死んでしまう恐れがあります。また、強すぎる力では逆に歯が動きにくくなるという報告もあります。

したがって、矯正の力を強くし過ぎることは避けたほうが良いと言えます。

矯正治療中に起こる歯のグラつきが想定の範囲内であれば問題はありませんが、あまりにも痛みなどが強い場合は、担当医に相談することをお勧めします。

矯正治療中の痛み

ご自身やお子さんの歯並びが気になり、矯正治療をしてみたいけど、痛いのでは?と不安に感じ、矯正治療をためらう方もいらしゃると思います。矯正治療は、矯正装置を歯に付けて歯を少しずつ動かすため多少なりとも痛みを伴うのは致し方ありません。しかし歯が動くこと以外の原因でも痛みを感じてしまうこともあるようです。今回は、矯正治療中の痛みについてまとめてみました。

矯正治療中に起こる痛みの原因

お子さんの矯正でも成人の矯正でも、矯正治療は歯に矯正装置を付けて歯を動かします。お口の中に矯正装置があるとまず違和感や異物感はどうしても感じてしまいますが、それ以外に「痛み」を感じ、矯正治療が苦痛に感じてしまうこともあるかもしれません。では矯正治療に伴う痛みの主な原因を挙げてみましょう。

  • 歯が動く痛み・・・矯正治療で最も多い歯の痛みは、歯が動く時の痛みです。矯正治療は歯に矯正装置を装着して歯に力を加え、歯を少しずつ移動させます。ワイヤー矯正装置の場合はワイヤーを調整したあと、マウスピース型矯正装置は新しいマウスピースに交換したあとに痛みを感じやすくなります。また顎間ゴムをかけたときや、インビザラインでアタッチメントを付けたときに、痛みが強く出ることがあります。これらの痛みは歯に力をかけた時に歯の周囲が炎症のような状態となり、周囲の骨を作り変えていく時に生じるため、ある意味歯が動いている証拠とも言えます。

 

  • 歯を削ったときに感じる痛み・・・ガタガタした歯並びを治す際、歯を正しい位置に並べるために歯のスペースを作るために歯を削る「IPR(ストリッピング、ディスキング)」という処置が必要になることがあります。IPRでは歯の表面のエナメル質だけをごく薄く削りますが、削る量が多いと、知覚過敏のような痛みが起きることがあります。

 

  • 矯正装置が当たる痛み・・・矯正装置が歯ぐきなどの粘膜に当たることで痛みを感じることも多いようです。装置が当たると粘膜に傷がつき、口内炎などになってしまうことがあります。口内炎になると普段の食事まで影響が出る場合もあります。

痛みの改善方法

矯正治療中に起こる痛みに対し、それぞれの原因に応じた対処法で症状の緩和が期待できます。

  • 歯が動く痛みに対する対処法・・・歯が動く痛みはずっと続くわけではありません。2~3日が痛みのピークで一週間程度で治まってきますが、あまりにも辛い場合は痛み止めを飲んで対処して下さい。ただし、痛み止めを大量に服用すると、周囲の骨を作り変えるための炎症反応を過剰に抑えてしまい、歯の移動を妨げてしまう可能性もあります。

 

  • 歯を削ったときに感じる痛みの対処法・・・歯を削った際に起きた痛みは、歯科医院での治療が必要になります。また痛みの原因が歯を削ったためではない可能性もあるため、歯科医院を受診し、症状に応じた処置を受けるようにして下さい。

 

  • 装置が当たる痛みの対処法・・・装置自体を調整して当たりにくくすることができる場合もありますが、それが難しい場合には装置をカバーするワックスなどを使用することができます。装置をカバーすることで粘膜に当たる衝撃を和らげます。

矯正治療は痛みや違和感はどうしても出てしまいます。しかし、痛みの原因と対処法を知っておくと気持ちの上でゆとりを持つことができるでしょう。矯正治療中の痛みに不安やお悩みがある方は、遠慮せずに歯科医師に相談してください。

 

 

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