矯正装置を付けることで歯が少しずつ動かし、歯並びや噛み合わせを整えていきますが、皆さんは「なぜ矯正装置を付けると歯が動くの?」と思ったことはありませんか。今回は、歯が動くメカニズムについてお話したいと思います。
歯が動くのは「歯根膜」の存在による
歯は、歯ぐきに付着して並んでいるのではなく、歯槽骨という骨によって支えられています。そして歯の根の周りには「歯根膜」というごく薄い膜があり、歯と歯槽骨を繋げています。この歯根膜は繊維を主体とした組織で、食事などで噛む力がかかったとき、歯に加わる衝撃を吸収、緩和して和らげるクッション的な役割を持っています。矯正治療では、この歯根膜があるおかげで歯が動くことができるとも言えます。
矯正治療で歯が動くのはなぜ?
ワイヤー矯正やマウスピース矯正などで矯正装置を装着し、歯に力を加えると、その力が歯根膜に伝わります。力が加わることで、歯が動く側の歯根膜は縮み、反対側は引っ張られるため歯根膜が伸びます。そして歯根膜は一定の厚みを保とうとする性質を持っています。矯正装置によって力が加わることで歯根膜が伸び縮みし、歯根膜の厚みに変化が起こると、歯を支えている骨にある変化が起きます。
その変化とは、「骨を作る細胞(骨芽細胞)」と「骨を溶かす細胞(破骨細胞)」が集まってきて働きだすことです。縮んだほうの歯根膜は元の厚みに戻ろうとする性質があるため、骨を溶かす細胞の働きが活発になります。反対に、伸びたほうの歯根膜は縮もうとする性質があるため、骨を作る細胞をが活発になります。また、近年では骨の中に埋め込まれた細胞(骨細胞)が骨にかかる力をセンサーのように感知して、骨芽細胞や破骨細胞の働きに関わっていることもわかってきています。このように、矯正治療で歯に力が加わると、骨を溶かす細胞と骨を作る細胞が働き、骨が作り替わるため、移動した位置で歯根膜が元の厚みに戻ります。この働きを繰り返すことで歯が動いていきます。
年齢が若い方で歯の移動が比較的スムーズに行いやすいのは、この骨の作り替え(骨代謝)が盛んにおこなわれるためとも言えます。
歯は1か月にどのくらい動く?
ご紹介したように、矯正治療では骨代謝や歯根膜の性質を利用して歯を少しずつ動かしていきます。矯正治療に適した弱い力を加えながら歯を動かすため、1カ月に動かせるのはおよそ0.5mmから1mmと言われています。早く歯を動かしたいからといって通常よりも強い力を加えると、歯の根などに余計なダメージを加えてしまうことがあります。
なお、矯正治療を始めると歯が揺れ始めることがありますが、お話しした通り歯の周りの骨が作り替わっていく過程でよく起こることであり、適切な力の大きさであれば歯が抜けることはありませんのでご安心ください。