「8020運動」という言葉を見たり聞いたりしたことはありますか?これは、「80歳になっても20本以上自分の歯を残そう」という運動です。自分の歯が20本以上あれば、食生活にほぼ不自由することなく食事を楽しんでいただけます。そのためにはご自身の歯を失わないようにしなければいけませんが、歯の寿命と歯並びは深い関係があります。
歯を失う主な原因は、虫歯と歯周病
成人の方の歯の本数は、親知らずを除くと上下左右合わせて28本です。乳歯から永久歯に生え変わった歯は、体の健康を維持する「食べる」という非常に大切な機能を持つことになります。年齢を重ねていくにつれ、口腔機能は少しずつ衰えていきますが、お手入れ次第で十分歯の寿命を延ばすことができます。実際、80歳を過ぎた方でも20本以上ご自身の歯が残っている方はたくさんいらっしゃいますが、残念ながらそれまでに歯をたくさん失う方が多いのが実情です。
その歯を失う主な原因とは、虫歯と歯周病です。どちらに感染しやすいかはお口の中の細菌の数にもよりますが、どちらも磨き残しが原因で起こります。磨き残しがプラークとなり、虫歯菌が多い場合は虫歯菌が集まって酸を出し、歯周病原菌が多い場合は毒素を出して口腔内のトラブルを引き起こします。
そしてこれら歯を失うプラークの蓄積の原因の一つに、「歯並びの悪さ」があるのです。
歯並びの悪さが歯の寿命に影響する
歯の健康を維持するために欠かせないのが、毎日のブラッシングです。お口の中に残る食べかすを歯ブラシやフロスなどできれいに取り除くことでプラークの形成を抑制し、虫歯や歯周病トラブルを低下させることは、お口の健康維持の基本であることはよく知られています。しかしどんなにブラッシングを頑張っても、デコボコした歯並びではどうしても磨き残しが出てしまいます。その結果プラークが蓄積し、虫歯や歯周病が発症しやすく、歯を失うリスクが高くなってしまいます。
また、実際に8020を達成された方々についての調査の結果でも、Ⅰ級咬合関係(前後的に上下の噛み合わせのずれがない状態)の歯並びのよい方が比較的多く見られることが分かっています。この理由はおそらく、バランスの良い噛み合わせでは、咬合の負荷が偏りにくいですが、バランスの悪い噛み合わせでは、ある一部の歯に対して咬合の負荷が大きくかかり続けて、結果的に歯の早期喪失を招くためと考えられます。
生涯ご自身の歯で食事を楽しんでいただくためには
ご紹介したように、歯並びと歯の寿命は深い関連性があることがわかっています。歯は失ってはじめてその大切さを痛感するものです。歯並びの悪さにお悩みの方は、見た目のコンプレックスばかり意識がいってしまいますが、ブラッシング不足や咬合圧の偏りによる歯の喪失という、より深刻な事態を招くリスクが高くなります。ご自身の歯を長持ちさせ、生涯ご自身の歯で食事を楽しむために、歯並びにお悩みの方はいちどかかりつけの歯科医院にご相談することをお勧めします。
ヒトの呼吸は、本来鼻で行います。ところが最近では、口で呼吸をする「口呼吸(こうこきゅう)」をする方が増えています。口呼吸は体の健康に影響を与えるだけでなく、歯並びにも影響を与えると言われています。これはいったいどういうことなのでしょうか。
なぜ口呼吸が悪いのか
私たちが毎日無意識で行っている呼吸は、鼻で行います。鼻には、細菌やウイルス、ホコリなどが体内へ入り込まないようにする役割があります。
ところが慢性的な鼻づまりなどが原因で鼻で呼吸ができなくなると、口で呼吸を行ってしまいます。口で呼吸をすると、ウイルスや細菌、ホコリなどが直接体内に入り込んでしまいます。その結果、のどの粘膜を直接刺激したり、風邪やインフルエンザなどにかかりやすくなってしまいます。
また口呼吸はお口の健康にも影響しています。お口の中は常に唾液で潤っており、細菌の繁殖を抑える役割を負っていますが、口で呼吸をすることによってお口の中が乾燥し、細菌が増殖してしまいます。その結果虫歯や歯周病になるリスクが高まります。また口臭や歯の着色の原因にもなり、エチケット面においてもマイナスイメージを与えてしまうなど、口呼吸を行うことは体とお口の健康にとって悪影響しかありません。
口呼吸が与える歯並びへの影響について
小さなお子さんの歯並びの形成にも口呼吸が関わっていると考えられています。その大きな理由は、舌の位置です。舌は本来、上顎の前歯の裏側のくぼみに先端が付いた状態で収まっています。舌がこの位置にあることで唇の周りをはじめとした筋肉とのバランスがとれるため上顎の歯列が上手く広がって成長していきます。
ところが口呼吸をしていると、自然と舌が下方に下がります。この状態のまま過ごすと、唇の周りの筋肉とのバランスがとれず、上顎の歯列も上手く広がらないためガタガタの歯並びになったり、出っ歯や開咬になってしまいます。
歯並びを整える治療よりも、まずは口呼吸をやめることが先
口呼吸はデメリットばかりで、良いことは何一つありません。お口の健康に関しても害ばかり与えてしまうため、まずは口呼吸をやめることから始める必要があります。
口呼吸になる原因は様々ですが、その多くは鼻や喉の疾患にあります。原因に応じた治療を行い、鼻で呼吸ができるように改善しましょう。
そのうえで矯正治療を行うと、歯並びとともにお口の健康を維持しやすくなると考えられます。
デコボコとした歯並びは見た目の問題が大きく、なかなか笑顔に自信が持てないのではないでしょうか。歯並びの悪さは確かに審美性を大きく損ねてしまいますが、問題はそれだけではありません。歯並びが悪いことで、虫歯や歯周病といった、歯やお口の健康に悪影響を与えてしまうことがあるのです。
なぜ歯並びが悪いと虫歯や歯周病になりやすい?
歯の健康を守るのは毎日のブラッシングです。毎日の丁寧なブラッシングが歯の汚れや食べかすを取り除き、お口の中の清潔を維持することを目的としていることは、既によくご存じでしょう。
ところがデコボコした歯並びでは、歯ブラシの毛先が届きにくいため汚れが残ってしまいがちです。汚れが残っているとお口の中の細菌が食べかすの中にある糖分をエサにしてプラークを作り出します。プラークは細菌の塊で、白くネバネバとした粘着性の物質が歯と歯ぐきの境目に付着します。このプラークを構成する虫歯菌や歯周病菌が酸や毒素を出し、虫歯や歯肉炎、歯周炎などのトラブルを引き起こします。
このように、歯並びが悪いことでブラッシング不足を招き、その結果虫歯や歯周病のリスクが高まってしまうのです。
虫歯と歯周病、どちらも歯を失うリスクが高い感染症
虫歯も歯周病も、そのまま放置すると歯を失う可能性がある病気です。どちらも細菌が原因である感染症で、虫歯はどの年代でも起こりやすく、歯肉炎は比較的若い世代、歯周病は30代以降によく見られます。
また歯並びが悪いと噛み合わせにも悪くなってしまいます。噛み合わせの悪さは一部の歯に余分な負担がかかり、局所的な歯槽骨の吸収に繋がる可能性があります。そのため歯周病になるスピードが速まり、早い段階で歯を失いかねません。
虫歯も歯周病も歯並びも悪さによって引き起こされることが多く、特に歯周病は歯槽骨が吸収されることで歯ぐきが痩せて隙間が生じ、その結果歯が傾斜してしまうこともあるなど、歯並びの悪さとお口のトラブルは相互関係にあると言ってもいいでしょう。
矯正治療の真の目的は、将来にわたる歯の健康維持
歯並びの悪さを改善したいと思う方のほとんどは、見た目が気になるからという理由だと思います。もちろん、歯並びが美しく整うと笑顔にも自信をもつことができることでしょう。しかし矯正治療の大きな目的は、歯並びや噛み合わせを整えることで歯磨きがしやすく、一部の歯に余計な負担をかけず、正しい噛み合わせを導くことです。つまり矯正治療は、将来にわたる歯の健康維持を真の目的としているのです。
矯正治療に伴うトラブルのひとつに「ブラックトライアングル」というものがあります。ブラックトライアングルは歯の健康には直接影響はありません。しかし矯正治療を終えた後にブラックトライアングルが気になる方も少なくはありません。今回は矯正治療に伴う副作用のひとつであるブラックトライアングルについてお話をいたします。
ブラックトライアングルとは?
そもそもブラックトライアングルとは何のことでしょうか。直訳すると「黒い三角」ですが、これは2本の歯と歯肉の間にできる三角のすき間を意味します。隙間が黒い三角形のように見えるため、このように呼ばれています。
ブラックトライアングルができる原因は、加齢や歯周病に伴う歯肉の退縮や、矯正治療によって起こるものが考えられています。特に矯正治療によってできるブラックトライアングルは歯肉が退縮していなくても起きてしまうことがあります。
ブラックトライアングルが矯正治療によってどのようにしてできるかを簡単にご説明します。デコボコした歯並びの部分の歯肉の量は元々それほど多くはありません。またデコボコした歯並びの部分はブラッシング不足になりやすいため歯ぐきが腫れてしまうこともよくあります。
そこへ矯正治療を行うことにより歯並びが整うと、歯と歯の間の歯肉の量が足りない分がすき間となって現れてしまいます。また、歯が磨きやすくなり、歯ぐきの腫れが治まり引き締まった結果ブラックトライアングルが出現する場合もあります。
このようなことから、ブラックトライアングルはガタガタの歯並びの方の矯正治療後に起きやすい現象と言えますが、全ての矯正治療後に起こるというわけではありません。また状態にもよりますが、治療前にブラックトライアングルが現れることが予測できることもあります。
ブラックトライアングルの治療法
次に矯正治療中にブラックトライアングルが現れた場合の治療法をご紹介します。矯正治療によりブラックトライアングルが現れるかもしれないと予測できる場合や治療中にブラックトライアングルが出現した場合、歯と歯の間を少し削る「IPR」という処置を行うと、すき間が少し減ったり、ブラックトライアングルが目立ちにくくなる可能性があります。
歯の健康には影響がないブラックトライアングル
矯正治療後に起こりやすいブラックトライアングルについてお話しました。ブラックトライアングルは全ての矯正治療後の方に起こるわけではありません。また歯の健康に直接影響はないため、ごくわずかな三角のすき間が気にならない方は、そのままにしておいても問題ありません。しかし治療後のブラックトライアングルが気になって・・・という方は、矯正治療中にいちど歯科医師に相談してみるといいでしょう。
乳歯が抜けて永久歯に生え変わる時期になると、歯並びが気になり始めるのではないでしょうか。整った歯並びは口元を清潔に見せてくれるだけでなく、お口の健康維持にも大いに影響します。永久歯の歯並びに大きく影響するのが、歯の生え変わりです。では歯の生え変わりの時期にはどのようなことに注意しなければいけないのでしょうか。
乳歯列期から生え変わりの時期の間で気を付けるべきこととは?
≪乳歯の虫歯≫
乳歯は永久歯が生えることで役目を終えます。しかし乳歯が虫歯になると、後から生えてくる永久歯列に影響が出ることがあります。永久歯が生える時期よりも早くに虫歯で乳歯を失ってしまうと、抜けた両隣の歯が傾斜して永久歯が生えるスペースを狭くしてしまいます。その結果永久歯が正しい位置に収まらず、ガタガタの歯並びになってしまったり、永久歯が生えてこられなくなる(埋伏する)ことがあります。
また乳歯が虫歯になることで、後から生えてくる永久歯も虫歯のリスクが高くなる可能性があります。さらに、乳歯の虫歯がひどくなって歯根の先まで炎症が広がると、生えてくる前の永久歯にダメージを与えてしまう場合もあります。このように、乳歯の虫歯は次に生えてくる永久歯や歯列に悪影響を及ぼす可能性が高いため注意が必要です。
≪生えかけの永久歯≫
第一大臼歯(6歳臼歯)と、その奥の第二大臼歯(12歳臼歯)は乳歯がなく、永久歯が直接生えてきます。そのため生えかけの段階では歯肉が歯を覆い、歯と歯肉の間に汚れが溜まりやすくなります。汚れが溜まると細菌感染を起こし、歯肉が腫れたり出血が見られることがあります。歯磨きをしっかりと行い、できるだけ汚れを溜めないようにすることが大切です。
また生えたばかりの永久歯はエナメル質がまだ弱く、虫歯になりやすい状態です。生えたばかりの永久歯が虫歯にならないよう、しっかり歯磨きをして気を付けて過ごさなければいけません。
≪指しゃぶりなどの癖≫
指しゃぶりを長い期間行うと、前歯が前方へ傾き、出っ歯や開咬になる可能性があります。また舌を前方へ突き出すような癖も、歯を前方に押しやってしまうため、出っ歯や開咬になりやすくなります。生え変わりの時期にこのような癖がある場合には永久歯の歯並びに影響が出てきます。
乳歯の時期からケアをきちんと行うことが大切
「乳歯は抜けてしまうから」とケアをおろそかにすると、後から生えてくる永久歯に悪影響を与えてしまいます。健康で美しい永久歯列を手に入れるためには、乳歯の時期から継続した適切なケアが欠かせません。乳歯を大切にできるかどうかが、永久歯列の状態に強く影響してきます。
矯正治療が終わり、矯正装置をお口の中から取り外したら、長かった矯正治療が終わった!と嬉しくなることでしょう。しかし矯正装置を外したからといって、そこで治療が終了するわけではありません。この後は「保定装置(ほていそうち)」という装置を付けて過ごす必要があります。ではこの「保定装置」はなぜ必要なのでしょうか。
なぜ保定装置が必要?
矯正治療が終了したばかりの歯は、実はまだ不安定な状態です。矯正装置によって力を加えて歯を動かし、歯並びを整えたあとは、歯と歯の間にある線維が元の状態に戻ろうとするため、そのままにしておくと歯が動いて後戻りが起きてしまいます。この後戻りを防止するための装置が「保定装置(リテーナー)」です。せっかく長い時間をかけて歯並びと噛み合わせを整えたのに、後戻りが起きてしまったら元も子もありません。きれいに並んだ歯並びと噛み合わせを保つため、そして後戻りを防止するために保定装置は欠かすことができないものです。
保定装置について
保定装置にはいくつか種類があります。取り外し式のものでは、表側にワイヤーがあり、裏側は樹脂素材からできているものや、透明のマウスピースタイプのものなどがあります。また固定式のものでは、歯の裏側にワイヤーを貼り付けるものがあります。保定装置は矯正装置と違い、歯を動かすことはありません。そのため保定装置を装着しても、基本的には歯が動く痛みはありません。
ただし、食事や歯磨きのあとに長時間保定装置を戻し忘れると、一時的に痛みが出ることがあるため忘れずにお口の中に戻すようにしましょう。
保定期間について
保定期間は約2~3年です。場合によっては3年よりもさらに長期間保定装置を使用することが望ましいこともあります。取り外し式の装置の場合、最初のうちは食事や歯磨きのとき以外は保定装置を装着したまま過ごします。矯正治療によって歯が並んだ位置に安定してきたら、少しずつ保定装置を外す時間を増やしていきます。ただし保定装置を外す時間はご自身で勝手に決めてはいけません。主治医の指示に従って装置を使用するようにしましょう。
特に最初の1年間はかなり後戻りしやすいため、しっかりと装置を使用することをお勧めします。
保定装置についての注意点
保定装置は長時間お口の中に装着するため、汚れや細菌が付いてしまいます。歯みがきの際に洗って、できるだけ清潔に保つようにして下さい。ドラッグストアなどでもリテーナー用の洗浄剤が販売されていますので、そちらを購入して使用するのも効果的です。なお消毒効果があるからといって、熱湯をかけることは絶対にしないでください。熱によって樹脂が変形し、使用できなくなってしまいます。
保定装置を破損・紛失した場合、すぐに受診するようにして下さい。長い時間保定装置が外れたまま過ごしていると、歯の後戻りが起きる恐れがあります。
保定装置は、きれいに整った歯並びを後戻りから守る大切な役割を持っています。きれいな歯並びをキープするために矯正治療が終わっても、もうしばらく頑張りましょう。
矯正治療途中に引っ越しや留学、出張になると、今まで通っていた歯科医院や矯正歯科に通院できなくなる可能性が出てきます。また矯正治療をしたくても、お仕事の都合で転勤が多い場合には矯正治療を躊躇する方もいらっしゃるでしょう。では矯正治療中に引っ越しなどが理由で通えなくなった場合、矯正治療はどうなるのでしょうか。
矯正治療中に引っ越しや留学などが決まったら?
虫歯や歯周病治療の場合、転居先の歯科医院で治療をすることは大きな問題ではありません。しかし矯正治療は長期間にわたって治療が行われるため、転勤などが決まったら、矯正治療はどうなってしまうのか心配になることと思います。
矯正治療はできる限り、治療を開始した矯正歯科医院で続けることがベストです。もし転居先から今までの医院に通院が可能であれば、これまでと同じ医院で治療を受けましょう。
遠方への転勤・転居・留学・出張などで通院が困難になった場合には、転居先の矯正歯科医院に紹介状や資料を持参または郵送して、転院手続きを行い、治療を引き継ぐことになります。
ここで注意したいのは、転院前と転院後の矯正歯科医院で治療方針や最終的な治療のゴール、矯正装置、料金体系などに違いがあるかもしれないということです。ゴールの認識が違えば治療期間や使用する装置にも違いが出るかもしれません。また、矯正装置には様々な種類があるため、転院元と転院先とで主に使用している装置が異なる場合には、転院後に装置を着け替えて治療を続けることも考えられます。転院の際には紹介状やレントゲン写真などの基礎的な資料を転居先に持参または郵送して治療を引き継ぎますが、上記のように治療方針や装置に変更が出たり、料金体系の違いから新しく費用が発生することがあります。
費用については、日本矯正歯科学会会員の矯正歯科医院で転医や治療の中断となった場合、日本矯正歯科学会の指針に基づいて、治療の進行状態に合わせて精算・返金を行うこととなっています(当院もこの指針に基づいた対応となります)。また、医院ごとに規定が定められている場合がありますので、転医や中断による費用の返金については主治医にご相談されることをおすすめします。
また舌側矯正装置での矯正治療を行っている方は、いちど装置を撤去し、違う装置を使って矯正治療を再開することもあります。その理由は、舌側矯正装置は医院によっては対応していないところもあるからです。また難症例に対応できる医院が残念ながら近くに見つからない、といったケースも見受けられます。
海外留学や出張など、諸外国へ転居するケースにおいては、表側に矯正装置をつけている場合は紹介が可能なケースがほとんどです。しかし舌側矯正装置の場合は、いちど装置を撤去して表側に着け替える必要があります。また短期間であれば一時的に装置を外して治療を中断し、帰国後に装置を着け直して治療を再開するといった方法も考えられます。
難症例のケースでは、これまでのかかりつけで通院したほうが良い場合も
難症例と言われている症例などでは、転院せずにこれまでと同じ矯正歯科医院に通ったほうが良い場合があります。例えば「2か月に1回なら通院が可能」など、通院頻度を下げれば通院できる場合には、転院せずにこれまでの矯正歯科医院で治療を続けた方が、結果的にはスムーズに治療が進む場合もあります。
引っ越しや留学などが決まったら、早めにかかりつけ医に相談を
矯正治療はできる限りこれまでと同じ矯正歯科で治療を受けることが望ましいですが、通院ができなくなった場合は現在の歯科医院に相談し、転居先の矯正歯科への紹介状などの資料を揃えてもらう必要があります。また、治療の中断の場合にも装置の撤去や中断期間に使用するリテーナー(後戻りを防ぐ装置)などの準備が必要です。転居が決まって通院が難しくなりそうな場合は、早めにかかりつけ医に相談するようにして下さい。
矯正治療は装置を付けて歯を動かす治療期間、矯正後の後戻りを防ぐための保定期間を合わせると、数年かかります。その間に矯正治療を中断したり、止めてしまう方も少なからずいらっしゃいます。では矯正治療を途中で止めることはできるのでしょうか。
矯正治療を止める理由とは?
冒頭でも触れたとおり、矯正治療は保定期間を合わせると、長い年月を必要とする治療です。頑張って治療を続けていても、残念ながら途中で来院が途切れたりして、いつの間にか治療を止めてしまわれるケースも見受けられます。では矯正治療を止める理由として、どのようなことが挙げられるのでしょうか。
・引っ越しに伴うケース・・・転勤や引っ越しにより、矯正治療が続けられなくなるケースがまず挙げられます。「引っ越しだから矯正治療を止めなければいけない」と思われる方がいらっしゃいますが、この場合、転院の手続きをすることで転勤先や引っ越し先でも矯正治療を続けることが可能です。現在治療中の歯科医院にその旨を伝えれば、紹介状を出してもらえます。ただし、歯科医院ごとに料金体系等が異なるため、転院先では別途矯正治療費が発生することがあります。まずは引っ越しで通院できなくなることを担当医に伝えましょう。
・ご自身の意思で止めてしまうケース・・・引っ越しなど物理的な理由ではなく、ご自身の意思で矯正治療を止めてしまうケースについては、様々な理由が考えられます。まずは患者さんとのスケジュールが合わず、矯正治療の予約が取れないというケースが非常に多く見られます。学校や部活、習い事などで忙しい方はなかなか予約が取れず、そのまま予約をしなくなっていつの間にか矯正治療を止めてしまった、というケースです。
また治療に対するモチベーションが低下してしまうことも、矯正治療を止めてしまう理由のひとつです。矯正治療は先が長い治療で、最初は「頑張ろう!」と思っていても、だんだん面倒になり、途中でイヤになってしまうパターンも多く見られます。その他、通院のたびに行う調整が苦痛という方も、矯正医療を止めたいという理由に繋がることがあります。このように、ご自身の意思によって矯正治療を止めてしまうケースも見受けられます。
矯正治療を止めてしまうことによるリスクとは
では矯正治療を途中で止めてしまうことで、どのようなリスクを負ってしまうのでしょうか。いちばん懸念されるリスクは、後戻りです。矯正治療は、歯に矯正装置を装着して歯を動かしますが、装置を外すと歯が元の位置に戻る「後戻り」が起きてしまいます。せっかく矯正治療を続けていても、治療を途中で止めてしまうと後戻りが起きてしまうため、これまでに費やした時間と費用が無駄になってしまいます。
もしまた治療を再開したいと思っても、止めてしまったところから再スタートできるとは限りません。後戻りが起きていると、再度検査や治療計画の立て直しから始まってしまうことがあります。
また、抜歯が行われた後に隙間を閉じる前に長期間治療が中断している場合は、歯が動きにくくなってしまっている可能性があります。
矯正治療は長期間にわたることが多いため根気のいる治療です。理想の歯並びを手に入れるためにも、矯正治療に対するモチベーションを維持することが大切です。
中学、高校になると部活動の中で吹奏楽を選ぶ方もいらっしゃるでしょう。吹奏楽は、文科系の部活でも人気が非常に高く、楽器を演奏している先輩の姿に憧れを抱き、自分もいつかあんなふうに演奏してみたい!と思うお子さんもきっと多いと思います。ここで疑問となるのが、吹奏楽と矯正治療が一緒に出来るかどうかです。実際はどうなのでしょうか。
基本的には矯正治療と吹奏楽の同時進行は可能
吹奏楽で使う楽器には、トランペット、フルート、トロンボーン、サックスなど色々な種類があります。そのほとんどが、音を出すためにマウスピース(この金管楽器で使うマウスピースは、矯正治療で使うマウスピースとは全く違う形状をしています)やリードが必要となります。
矯正治療では歯にブラケットなどの装置をつけて歯並びを改善していくため、マウスピースやリードが矯正装置に当たって楽器を演奏する際に音が出にくい、ということがあります。そのため、吹奏楽部の指導者によっては矯正治療を反対されることもあるようです。
しかし、矯正治療をしていると絶対に楽器の音が出ないというわけではないです。楽器によって、矯正治療の影響を比較的受けにくいものもあり、中でもフルートはあまり影響なく音を出すことができるようです。また、トランペット、トロンボーンなどマウスピースを付けて演奏する金管楽器もそれほど影響はないようですが、サックスやクラリネット、オーボエなどのリードを使用する木管楽器はリードをかむ必要があり、矯正治療にやや影響が出ることが考えられます。
どの楽器を演奏するにも、矯正装置がお口の中にあることで音が出しにくくなります。しかし絶対に出ないことはありません。その分、他の人よりもたくさん練習が必要であったり、楽器が制限されることもあります。
個人差が大きく出る矯正治療
矯正治療をしながら吹奏楽をしていると、矯正治療の進みが遅くなることがあります。しかし、そもそも矯正治療における歯の動き方には個人差があり、必ずしも皆同一ペースで進むわけではありません。
状況に応じた治療法や装置を選択しながら、個々のペースで治療を進めていくことが大切になります。対応が可能ならば矯正装置をブラケットなどの固定式の装置ではなく、取り外し式のマウスピースにするなど、患者さんのお口の中の状況と生活習慣に応じた治療法を一緒に考えながら治療を行い、吹奏楽も楽しめるようにするのがベストではないかと思います。中には難しいケースもあるかもしれませんが、ご本人にとっていちばん良い方法を一緒に考えていくのが、矯正治療における重要なポイントとなるため、悩み事はためらわずに歯科医師に相談して下さい。
矯正治療は歯に矯正装置を付けて過ごすことになります。スポーツをしている方、あるいはこれから何かスポーツに挑戦しようと思っている方にとって、スポーツをしながら矯正治療はできるの?という疑問を浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。では矯正治療中にスポーツはできるのでしょうか。
基本的には矯正治療中のスポーツは大丈夫
結論から言うと、矯正治療中でもスポーツを楽しんでいただけます。ただスポーツの種類によっては、顔や口元を強くぶつける可能性が高いスポーツもあり、矯正装置によって歯が欠けたり唇などの粘膜を怪我する恐れがあります。例を挙げると、ボクシングやラグビー、アメフトなどの接触の激しいスポーツはそのリスクが高いです。
またほかのスポーツに関しても、矯正治療の装置というよりは不意のアクシデントによって口元をケガしてしまうという意味では同じです。例えばバドミントンやテニスなどのラケット競技において、ダブルスの試合の時に味方のラケットが口元に当たってしまうことも十分想定できます。
一般的なワイヤー矯正の場合は特に、アクシデントによるお口の中の怪我や矯正装置の破損などがリスクとして挙げられますので、矯正治療はもちろん可能ですが、この点を留意していただければと思います。
先に挙げた接触の激しいスポーツをされる方や、怪我がご心配な方は、矯正装置に合わせて歯科医院でマウスガードを作製することで対処することも可能です。ただし、その場合は歯が動いていくのに合わせて何回もマウスガードを作り直す必要が出てきます。
マウスピース矯正装置の場合、比較的ケガをしにくいこと、またスポーツ中はマウスピースを外しておくことでこの点のリスクは軽減されますが、もしマウスピースをはめたまま競技を行い、口元をケガしてしまった場合、マウスピースが破損していないかも確認してもらって下さい。
スポーツと歯並びの関係
ここで、スポーツと歯並びの関係性について少しお話をいたします。
世界で活躍するトップアスリートたちの歯並びがとても美しいことをご存じでしょうか。歯列の整った美しい歯並びは、表彰台に乗ったときの笑顔を格別なものに仕上げてくれています。そして歯並びだけでなく、噛み合わせがきちんと整っていることも、トップアスリートたちの特徴でもあります。
スポーツでは、一瞬の強い力や瞬発力、反発力などが勝敗を左右します。その際、噛み合わせが大変重要になるのです。噛み合わせがズレていると、この一瞬の力を発揮することが難しくなり、タイムや成績にも変化が起こることがあります。このように、噛み合わせを改善することで、身体能力や瞬発力に差がついてしまうことがわかってきており、スポーツをするうえでも歯並びと噛み合わせの改善をすることはとても重要です。
歯並びと噛み合わせ、スポーツはとても大きな関係性を持っています。スポーツを楽しみながら歯並びと噛み合わせを整えてみましょう。