矯正治療を始めると、これまでには無かった症状が現れて不安になることもあるかもしれません。最も多いのが、前回お話しした歯が動くことで起きる歯の痛みですが、それ以外で心配になるのが、「歯がグラグラと動くこと(動揺)」ではないでしょうか。今回は、矯正治療中の歯のグラつきについてお話します。
矯正治療中はなぜ歯がグラグラする?
歯がグラグラと揺れ動くことを「動揺」と言います。矯正治療を受けている最中に歯に動揺が見られるのは決して珍しいことではありません。しかし矯正を始めて歯が動揺すると、「歯が抜け落ちるの!?」とすごく心配になることでしょう。ではなぜ矯正治療中に動揺が起きるのか、そのメカニズムをまずご説明します。
歯はそのまま歯ぐきにくっついているのではありません。歯の根の周りには「歯根膜」という薄い膜があり、その薄さはおよそ0.15~0.2mmと非常に薄いものです。歯根膜にはたくさんの細い線維が走っており、この線維に包まれて骨の中に歯が並んでいます。歯根膜があることで、指などで歯を押すと「生理的動揺」という歯がほんの少し動く現象が見られます。この生理的動揺は、健康な歯根膜でも見られます。
矯正治療はここに矯正装置による力を持続的に加えます。物理的な力が加わると歯根膜の中の骨を溶かす細胞である「破骨細胞」と、骨を作る「骨芽細胞」の働きにより歯の周囲の骨が作り変えられるため歯根膜が一時的に厚みを増します。矯正治療中はこの働きを繰り返しながら少しずつ歯が動くので、歯が少しグラつくことがありますが、決して異常というわけではありませんのでご安心下さい。
あまり強い力をかけるとトラブルの原因にも・・・
矯正治療は弱い力をかけながら歯の移動を行います。このため治療期間は長くなり、「もっと早く終わらないのかな」と思うようになる方もいるかもしれません。
しかし早く終えたいからといって、一般的な力のかけ方よりも強い力を加えると、歯ぐきに炎症が起きたり歯の根っこの吸収(歯根吸収)が起きたり、ひどいときには歯の神経が死んでしまう恐れがあります。また、強すぎる力では逆に歯が動きにくくなるという報告もあります。
したがって、矯正の力を強くし過ぎることは避けたほうが良いと言えます。
矯正治療中に起こる歯のグラつきが想定の範囲内であれば問題はありませんが、あまりにも痛みなどが強い場合は、担当医に相談することをお勧めします。